クラウド会計でできることと、税理士業界に与える影響について〔セミナー内容まとめ〕

超入門編

 

こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。

 

「結局クラウド会計ソフトを使うと何ができるの?」

「前々から記帳代行がなくなるって言われてるけど、実際そんなことないんじゃない?」

という疑問をお持ちの方に向けて、超入門編のような感じで、先日30名超の税理士の諸先輩方の前でクラウド会計ソフトについて簡単なセミナーのようなことをしました。

 

そのときの心構えなんかを備忘録的に『はじめての話す仕事』という記事に書いたのですが、「セミナー内容も読みたいです」というご要望をたまわりましたため(ありがとうございます!)、どんな内容の話をしたのか、少し手は加えますが残しておきたいと思います。

 

 

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クラウド会計ソフト超入門編の概要

概要として、次の3点を話しました。

  • クラウド会計ソフトでできること
  • 税理士業界に与える影響について
  • クラウド会計ソフトの現状の課題

 

 

また、その『はじめての話す仕事』にも書きましたが、そもそもクラウド会計ソフトにはどんな商品があるのか先に挙げておくと、

  • freee
  • MFクラウド(マネーフォワード)
  • 弥生会計オンライン(従来の会計ソフトがクラウドのサービスも打ち出したもの)

というようなものがあります(このほかにも色々ありますが、例として)。

 

 

 

クラウド会計ソフトでできること

「クラウド会計ソフトでなにができるのか?」

それに対する疑問には、

  • 銀行口座など、自動で取り込んで記録できるものがある
  • 現金で払った経費などは自動で取り込めないものの、スキャン等で取り込むことができる

という2つが、今までの会計ソフトの使い方にはない特徴ということができます。

 

※ これまでも銀行口座等と連携できるソフトはありましたが、一旦csvにしなければいけないものもあり、多くの税理士事務所では十分に活用されていなかったのが現状ではないでしょうか。クラウド会計ソフトは連携をむしろ基本のやり方としている点がこれまでとは異なります。

 

 

自動で取り込むことができるもの

そのまま上の図に書きましたが、

  • 銀行口座
  • クレジットカード
  • Amazonや楽天など

を自動で取り込むことができます。

 

 

銀行口座

これまでは、「通帳のコピーを借りる等して事務員さんに会計ソフトへ入力してもらう」、というのが銀行口座の入力の流れでした。

しかしクラウド会計ソフトでは、その銀行口座を同期(ざっくり言うとつなげること)することによって、人が入力をすることなく自動で取り込むことができるようになります。

(その銀行口座がインターネットバンキングとして使えるものであること、という条件はあります)

 

会社の取引というものは、「同じ相手先からの入金」「同じ相手先への支払い」が一定数あります。

クラウド会計ソフトでは、これらを継続的に取り込むことによって「この相手先はどういう取引をしているのか」を記憶させることができるため、正確に取り込むことを重ねていくことでだんだん入力が楽になっていくいうのは特筆すべき機能です。

 

 

クレジットカード

クレジットカードも同様に同期して取り込むことができます

こちらもこれまでは「カードの明細をもらって事務員さんに入力してもらう」という作業がありましたので、この手間を省くことができます。

 

 

Amazonや楽天など

それだけではなく、Amazonや楽天なども取り込むことができます

特にAmazonや楽天は本当になんでも売っているわりに、クレジットカードの明細には「Amazon」しか出てこない等、なにを買ったのかが今ひとつわからないという欠点があります。

それが自動で取り込むことによって商品名まで取り込むことができるようになりますので、いちいちお客さまに「これはなにを購入されたんですか?」と聞かなくてもよくなります。

 

Amazonや楽天だけでなく、一例としてMFクラウドで連携できるものを挙げますと、

  • nanaco
  • おさいふPonta
  • モバイルSuica
  • SMART ICOCA
  • ASKUL
  • たのめーる
  • Airレジ

などなど非常にたくさんのサービスと同期することができます。

 

(話のときは言い忘れましたが、misocaのような請求書を発行するサービスとも連携することができます)

 

 

 

現金で払った経費などの取り込み

さすがに現金で支払った領収書は取り込みようがありませんので、自動では無理ですが、これも今までの会計ソフトの使い方ではされていなかった方法で入力することができます。

上の図では概要を示すことを優先して「ひと手間かけて取込⇒経費」という感じで書きましたが、経費の取り込み方としても3種類あります。

 

 

スキャナーでスキャン

まずはスキャナーで領収書をスキャンする方法です。

スキャンした領収書をクラウド会計ソフトにアップロードし、それを読み込んでもらうことができます。

次のカメラで撮る方法よりも精度は高いです。

 

 

スマホの写真をアップロード

スマホで領収書の写真を撮り、それをアップロードすることで読み込むこともできます。

ただ「課題」の面でも取り上げますが、正直現時点(2016年12月時点)では精度はまだまだ高くない、というのも率直な印象として私は抱いています。

(20,000円ぐらいのものが2円として出たり、そもそも数字を読み込めなかったりします)

 

 

Excel(csv)をインポート

これはこれまでの会計ソフトでもできたことなので、クラウド会計ソフトでのみできることではありません。

ただ上述の精度の問題を考えると、手順さえ整備してしまえば一番安定して処理ができるのは結局このやり方であると現時点では感じています。

 

 

 

 

 

クラウド会計ソフトが税理士業界に与える影響について

影響の図

次に、税理士業界に与える影響については、

  • 脅威
  • 利点

がそれぞれあるのでは、というのが私の考えです。

 

 

クラウド会計ソフトの脅威

脅威として大きいのは、

  • 報酬の値下げ
  • クライアントの解約

の2つが現実味を帯び始めているということが言えるでしょう。

 

 

報酬の値下げ

特に記帳代行(領収書などをもらって税理士事務所が代わりに入力すること)をいままでの主力としていた税理士事務所にとって影響は多大です。

これまで税理士事務所に任されていたものが、業務としてのハードルが下がったことで、

「代わりにうちの経理に取り込んでもらうようにするから、顧問料を下げてくれないか」

と迫られる可能性は大いにあり得ます。

 

 

クライアントの解約

また、場合によっては顧問契約を解約されるおそれもあるでしょう。

私がお会いした若い経営者の方には、

「クラウド会計を導入していない事務所はそもそも候補から除外します」

という方もいらっしゃいました。

 

たとえば現在の社長はまだよくても、意欲的な若い経営者に代替わりをした際に、クラウド会計ソフト(でなくてもその時点での先鋭的なサービス)の導入を怠ったばかりに解約される、という可能性は、事務所を経営する人間として憂慮しておくべきことです。

 

 

 

クラウド会計ソフトを取り入れることの利点

しかし脅威だけ、ということもなく、自ら取り入れる姿勢でいることによって生まれる利点もあるのではないか、というのもまた私の考えです。

その利点については、

  • 経営効率の向上
  • 人手不足への対処
  • 税理士本来の業務に注力できる

という3点が挙げられます。

 

 

経営効率の向上

先ほど精度の問題に言及しましたが、しかし精度だけを取り上げれば、これまでの技術革新を見るにまず間違いなく今後向上していくものでもあります。

そうして今よりもさらに入力の手間が減ることにより、これまで事務員の方2人で行っていた業務が1人でよくなる(あるいはお客さまに部分的に手伝っていただく)ということもあり得るでしょう。

安易に人件費を切り下げろという話ではもちろんありませんが、固定費の削減は経営上の重要課題です。

 

 

人手不足への対処

いまでもかなり顕在化していますが、私は今後日本ではさらに人手不足が進むものと考えています。

そのため、今後さらに進む可能性のある人手不足への対処として、クラウド会計ソフトを積極姿勢で取り入れることで業務効率を上げる、ということが利点になり得ると考えます。

 

 

税理士本来の業務に注力できる

これは私というよりも参加されていた先生にご助言いただきましたが、税理士本来の業務に注力できるというのも重要な利点です。

お客さまの代わりに領収書を入力して差し上げることがはたして税理士の本来の仕事と言えるのでしょうか?

断じてそんなことはありません。

税務上の問題の解決のみならず、財務上の分析など経営に役立つサービスを一つでも多く、少しでも深く提供すること、それこそが我々税理士の本来の業務と言えるでしょう。

 

 

 

 

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クラウド会計ソフトの現状の課題

これは上記の内容をお話ししたあと、ご質問なども出て全体で話し合った内容です。

特に挙げられたのが、

  • 間違った入力をされていた場合の修正のしにくさ
  • 処理の遅さや、精度の問題
  • セキュリティに対する認識の問題

の3点でした。

 

 

間違った入力をされていた場合の修正のしにくさ

精度の問題とも共通しますが、敷居が下がった(正確には間口が広がった)がために簿記の知識がまったくない方でも会計処理ができるようになりました。

これは間違いなくいいことでもあるのですが、そのために、

  • 口座の残高がずれている
  • 売掛金がマイナスになっている

など、税理士事務所で処理した場合にはあり得ないような、初歩的なミスが見受けられることがあります。

 

このようにミスが起こりやすい環境であることに加え、少々修正がしにくいというのもクラウド会計ソフトの欠点です。

これはせめて修正がしやすいよう、今後の改善を期待したいところです。

(ちなみにこの課題は話したとき言い忘れました)

 

 

 

処理の遅さや、精度の問題

インターネットさえつながればどこでもできるという利点の対岸の問題として、処理の遅さも挙げられます。

やはりその端末にインストールされたソフトでの処理と、インターネットを介しての処理ではスピードに差があること自体は致し方ないこと。

ただこれも今後の技術革新にともなって改善される見込みはあるものと考えます。

 

精度がまだまだ高くないという問題も、前述のように手放しに便利であると現時点では言いがたく、いちいち修正するぐらいなら直接入れてしまったほうが早いのでは、という現状もあります。

スマホで写真を撮るだけ、というのは手間の観点からすると非常に取り組みやすい、メリットの大きな処理ではありますので、これも今後の改善に期待したいところです。

 

 

 

セキュリティに対する認識の問題

お客さまのなかには、

「クラウド会計ソフトに銀行口座を読み取られるのは怖い」

という方は一定数いらっしゃいます。

 

これについては、各社セキュリティにはかなり神経を使っていますし、MFクラウドなどは電子証明書方式を利用してより安全な銀行口座との連携をできるようにしている、ということも以前担当の方と話をした際にお聞きしました。

とはいえ情報漏洩の報道がたびたび出てくるように、悪意のある人間はいなくなりませんし、技術に絶対はないように思います。

このあたりはどこまで技術的にセキュリティを上げられるのか、またそれぞれがどこまで許容できるのかといった、社会としてのITに対する成熟度も関わってくる問題ではないかというのが私の認識です。

 

 

 

 

まとめ

というわけで、思いのほか長くなってしまいましたが、

  • クラウド会計ソフトでできること
  • クラウド会計ソフトが税理士業界に与える影響について ― 脅威と利点
  • クラウド会計ソフトの現状の課題3点

について、東京税理士会神田支部の実務研究会で私がお話しした内容を中心にまとめました。

 

ほかの先生もおっしゃっていましたが、実際どう動くのかはともかくとしても、これは5年後10年後を見据えるなら必ず視野に入れておくべき問題です。

税理士業界に今後もいるのであれば、どういう形であれ情報収集と絶え間ない実践は怠らないようにしたいものです。

 

また、挙げたような現状の課題に対しても税理士が積極的に開発会社へ伝えていくべきという意見もありました。

これもまさしくそのとおりで、サービスに修正すべき点があるのなら、それを認識できる人間が開発した会社へ伝える責任というものもあるように感じています。

そのように協力してサービスをブラッシュアップしていくことができるのであれば、お客さまにとっても我々にとっても有益で、また日本の発展にも微力ながら貢献することができるのではないでしょうか。

 

 

今回、普段とはだいぶ違うテイストでしたし、冒頭で「ご要望があって」と書きましたが、実際には「セミナー内容も残しといたほうがなにかにつながるかもよ」というアドバイスを頂戴したものと私はとらえています。

というわけで講師の仕事とかあったらお待ちしてまぁーす☆

 

 

 

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