こんにちは。めがね税理士の谷口(@khtax16)です。
「エストニアという国で税理士・会計士が消滅した」
少し前にこんなニュースが話題になりました。
個人的に興味があり、今日そのエストニアの現状についてのセミナーに参加したため、聞いてきたことの一部と考えたことをまとめました。
目次
エストニアで、厳密には税理士は消滅していない
上記の言葉が有名になったのは大前研一さんの記事です。
ごく一部ですが引用します。
国民IDのチップを格納したSIMカード入りのスマートフォンからも、eガバメントポータルへのログインや電子文書への署名も可能になっている。スマホさえあれば、住民登録から年金や保険の手続き、納税などが簡単にできてしまうのだ。このためエストニアでは税理士や会計士が不要になり、それらの職業は消滅したのである。
出典:週刊ポスト2016年9月2日号「エストニアの電子政府実現で税理士や会計士の職は消滅した」
消滅?までの経緯
経緯をざっくりまとめると、
- エストニアでは国が電子政府化を推し進めた
- 同時に税制が非常に簡素化されたので、税理士や会計士がいなくなった
という内容です。
どうも「電子政府化が」とか「キャッシュレスが」とかが話題になりがちですが、税理士がいなくなった云々については「税制が非常に簡素化された」というのが大きなポイント です。
エストニアでの法人税の簡素化
エストニアでの法人税がどんな感じなのかというと、配当したときに約20%の法人税 がかかります。
また、それとは別に、給与や福利厚生費を出した場合、それらの合計額の約40%の法人税がかかります。
それなら「給与の形でなく株主兼社長に配当し、そこから社長がポケットマネーで従業員に給与を払ったほうが税金が安く済む」ということになり、ほとんど配当に対して課税されるだけ、という流れのようです。
- 節税とか考えずとりあえず利益を出せるだけ出す
- 決算をし、利益が確定してから配当の金額を決める
で終わるので、日本のように「法律的にはこうなってるので、このやり方だとこのようなリスクがあります」「御社の状況だとこんな節税が効果的です」というようなサービスは必要ない、ということになります。
なお、内部留保(利益をためておくこと)をしているあいだは税金がかかりません。
厳密には税理士・会計士は消滅していない
ただ厳密にはすべてが消滅したわけではなく、個人向けの業務はなくなったものの法人向けの業務は残っている、ということでした。
ただ前述のように付加価値の高い仕事をする余地があまりなく、儲からない仕事になってしまった、という現状もまたあるようです。
そしてエストニアで税理士がどうなったかという明確なデータはなかった(か私が聞き逃した)のですが、少なくとも税務署員に当たるような人はEU加盟にともなって増加した国際業務に配置換えになった、ということもあったようです。
講師の方がわかる範囲の話ですと、
- 国際的な業務に対応できるようにした
- 自分でビジネスを立ち上げた
という方向に進んだのでは、とのことでした。
(※ 追記)
全般的に、私が2016年11月に聞いたセミナーの内容をもととしていますのでご注意ください。たとえ内容が誤っていて損害が生じたとしても筆者は一切責任を負いません。何か判断するときは必ずいろいろ調べましょう。
日本でも税理士・会計士は消滅するか?
エストニアが電子政府を実現できた要因として、歴史問題や国民性、政府の熱心な教育、などいろいろあるようですが、日本との大きな違いを挙げると、
エストニアは人口約130万人の国
ですので、人口の違い、規模の違いという要因は大きそうです。
そのほか日本との文化の違いももちろん大きいでしょう。
また、エストニアが代表例として挙げられているだけで、エストニアと同じような傾向は北欧の国に広く見られるとのことでした。
税制を簡素化(単純化)できたことが大きい
「電子化」というと「便利になる」という面が大きいですが、「エストニアで税理士が消滅した」と言われてしまうほどの状況にはなったのは、単に電子化が進んだだけではなく 税制が簡素化されたことが何より大きい ようです。
単にいろいろなことを電子化するだけでは、いまの日本の複雑な税制に誰もが対応できるようになるわけではありません。
では日本がどうなったら税理士が消滅するのか?
そう考えると、結局 日本でも税制が簡素化されるかどうか、が非常に大きなポイントになるでしょう。
同業の方ならわかっていただけるでしょうが、「税理士」という仕事が成り立つのは結局のところ 日本の税制が複雑だから です。
この税制が変わるかどうかは、日本の官僚組織がどう動くのか・政治的にどのような流れになるのか、という部分が大きいので、講師の方もおっしゃってましたがこればかりは予測ができません。
衰退していく日本
税理士の立場で言うのもなんですが、日本という国全体の趨勢を踏まえて「こうあるべき」を考えるなら、自分の食い扶持がなくなろうと 税制はせめてもう少し簡素化されるべき、と私は思います。
(税制というか制度全般。税制は特に地方税と消費税)
学識のない私が言ってどこまで説得力が出るものかわかりませんが、私は今後、日本は衰退していく国だと思っています。
今を生きる我々にできるのは、子や孫の世代のためにどこまで衰退を食い止められるか、という衰退のスピードに関することであって、落ちつづけることはないにせよ向こう数十年は(国としては)衰退していくんだろう、という観念を私は持っています。
(私が「よかった頃の日本」を実感したことがない世代なので、そのせいもあるのかもしれませんが)
100歳まで生きるかもしれない我々
『[感想]LIFE SHIFT あなたの子どもは100歳まで生きるかもしれない』という記事で、
「いま20歳の人は100歳以上、40歳の人は95歳以上生きる確率が半分以上ある。」
という書籍の引用をしましたが、この本の情報を信じるなら現役世代の我々は100歳近く生きる可能性があります。
長寿化が今後も進み、働く高齢者も増えるのでしょうがそれでも人手不足がますます顕在化していくとすれば、いろんな制度を簡素化してもっとビジネスに取り組みやすい国にして、その時々のテクノロジーを駆使して国全体で時代に対応していくしかないのでは、というのが私の考えです。
日本の税理士・会計士は今後どうすべきか
さて、それらも踏まえて日本の税理士や会計士が今後どうすべきなのか。
とりあえず「日本で税理士・会計士が消滅するか」はわからない、少なくとも日本の国民性を勘案するとエストニアのように短期的に消滅への道を歩むということはないのでは、というまとめもできるかと思います。
なのでそれとご自身の年齢を踏まえて「自分が現役のあいだくらいは大丈夫だろう」と腹をくくるのも一つの選択肢でしょう。
しかし私が無事に今後生きていった場合ですが、いま31歳の私の現役はどんなに少なく見積もってもあと30年はあります。
そんな私が「大丈夫だろう」と腹をくくっていて、たとえばあと20年後、50歳を過ぎたときに突然「もう税理士いらねえから」という状況になったときに対応できる気は正直しません。
上にも書いたように、
- 国際的な業務に対応できるようになる
- 自分でビジネスを立ち上げる
というのは対応策として有力な選択肢なんだろうなと思います。
しかしもしこの2つしかないなら、国際税務に取り組むより自分でビジネスを考えてみたいなー、というのが現時点での私の率直な気持ちです。
それにはなにより種まきが重要ですし、『好きでしかたがない仕事 税理士の仕事』でも書いたように私は税理士の仕事自体は大好きですので、今いただけている仕事に感謝して全力で取り組みつつ、いろんなことにアンテナを張って勉強してチャレンジしていく、そういう姿勢がなにより大事なんだろう、と改めて考えました。
おわりに
というわけでエストニアの現状の簡単なご紹介と、それによって私が考えたことをまとめました。
誤解を招くとあれなので、ひと言添えると私は日本が大好きだし今後も住みつづけていきたいと思っています。
でもそれももしかしたら「英語ができない自分」を変えることができない(変えることへの抵抗を大きく感じている)からそう思っているだけ、という面も率直に言ってあると思います。
まあテクノロジーの話をするなら翻訳がさらにさらに発達して多言語を習得する必要がなくなる、そんな時代が来る可能性もあるんでしょうが、、、
「未来のことばかり考えてもしかたない」という意見も最もなのですが、かといってまったく「これからの時代の流れを考慮しない」のもどうなのかなあというのが私の感覚です。
「いまを真剣に、全力で生きる」ことに情熱をそそぎつつ、「未来を視界の片隅にとらえる」こともまた必要なんじゃないか。
そう考えていろいろ学んで活動していきたいと思った勉強会でした。