先日書いた『決算日とは 月末以外でもいいの?変更できるの?』の記事で決算日とはなにかについて解説しました。
今回は法人税の申告期限についてもう少し詳しくまとめてみます。
目次
申告するのは2カ月以内が原則
『決算日はいつがいい? 気をつけるべき点3つ』の記事でも書きましたが、大事なことなので改めて書きます。
会社というものは決算日から2カ月以内に税務署に申告しなければならない、という決まりがあります。
税理士事務所でよく使われる用語として、
- 決算月(けっさんづき) … 業績を締める月(3月決算の会社であれば3月)
- 申告月(しんこくづき) … 申告をする月(3月決算の会社であれば5月)
などといった使い分けをしたりします。
延長ってなに?
ではここで、とある社長さんから、
「なにがなんでも2カ月以内に申告しなくてはいけないの?」
という質問を受けたと仮定しましょう。
いやいや社長、相手はお役所ですから、期限を守らなくていいなんてことがゆるされるわけがない……
と見せかけて実は3カ月以内に延ばすことができます。
どうやって3カ月に延ばすの?
3カ月に延ばすには、ある条件を満たしたうえで、一定の手続きを踏むことが必要です。
ざっくり言うとこんな流れになります。
- 株主総会を3カ月以内に招集することを定款で定める
- その定款をもとに税務署へ「3カ月以内に申告するからね」という届出を出す
順に見ていきましょう。
株主総会を3カ月以内にしよう
まずは自社の定款に、このような文章が載っているかを確認しましょう。
第3章 株主総会
(招集)
第15条 当会社の定時株主総会は、毎事業年度終了後3ヵ月以内に招集し、臨時株主総会は、随時必要に応じて招集する。
「3章」「15条」は仮の数字なので、別の数字でも気にする必要はありません。
すでにこのような記載になっているかどうかでやることが変わります。
■ すでに3カ月以内の場合
現在の定款のままでOKです。
次の『税務署へ届出を出そう』へ進みましょう。
■ 2カ月以内の場合・このような記載そのものがない場合
定款を変更する必要があります。
- 2カ月以内の場合 → 3カ月以内に修正する
- 記載そのものがない場合 → この株主総会の項目を盛り込んだ定款に変更する
特に株主が社長おひとりの場合、形式上それっぽく整っていれば税務署への届出は簡単に通ります。
定款のひながたはインターネットに転がってますので、「3カ月以内」になっているものから必要なところを抜粋して変更しましょう。
■ (余談)株主総会ってなんだっけ?
本来会社というものは、決算のとき、
- 決算日で業績を締め、1年分の利益などを計算する
- それを株主総会で株主に報告し、株主の承認を得て決算を確定させる
- その確定した決算をもとに税務署へ申告する
という手続きを踏まなければなりません。
しかし小規模な会社さまはそもそも株主総会を開いていない、というケースが多々あります。
ただ株主総会を開いていない場合であっても、株主が社長一人であれば問題になることはまずありません。
なぜならあなたの存在そのものが株主総会であるといってもこれ過言ではないからです。
そのほか外部に株主がおらず、家族だけで株を持っているのであればそうそう問題は起きませんが、たとえばある日揉め事が発生するなど、場合によっては正式な手続きを踏んでいるかどうか気にしなければいけなくなることもあります。
この場合にはしっかりした手続きを踏むことが望ましいので、ちゃんと対応してくれる税理士に依頼しましょう。
税務署へ届出を出そう
次は税務署へ出す届出をつくって、提出します。
簡単に「税務署」と書きましたが、実際には税務署と都道府県(都税事務所・県税事務所など)にも書類が必要です。
具体的な名前としては、
- 申告期限の延長の特例の申請(税務署へ)
- 申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書(都道府県へ)
という届出をつくり、その変更した定款をつけてそれぞれの役所へ出せば完了です。
これで次の申告から3カ月以内にすることができます。
(※)おそらく義務ではないのですが、市区町村によっては「都道府県だけじゃなくうちにも出してよ!」と言っている所もあります。市区町村に申告する必要がある場合はホームページを見るなどして確認してみましょう。
いつまでに出せばいいの?
これはその事業年度の末日までに出せばOKです。
2016年8月に、たとえば3月決算の会社さんがなるべく早く適用を受けたいと考えた場合、2017年3月31日までに出せば、その2017年3月期の申告から延長できる、ということですね。
届出でよくある期限が「その事業年度開始の日まで」、つまり同じ会社さんが2017年3月31日までに出した場合、次の期(2018年3月期)から適用が受けられる、ということが多いです。
なので、延長は結構めずらしいと言えますね。
一応根拠
期限に関する条文はこんな感じになっています。
(確定申告書の提出期限の延長の特例)
第七十五条の二 第七十四条第一項(確定申告)の規定による申告書を提出すべき内国法人が、会計監査人の監査を受けなければならないことその他これに類する理由により決算が確定しないため、当該事業年度以後の各事業年度の当該申告書をそれぞれ同項に規定する提出期限までに提出することができない常況にあると認められる場合には、納税地の所轄税務署長は、その内国法人の申請に基づき、当該各事業年度(残余財産の確定の日の属する事業年度を除く。)の申告書の提出期限を一月間(特別の事情により各事業年度終了の日の翌日から三月以内に当該各事業年度の決算についての定時総会が招集されないことその他やむを得ない事情があると認められる場合には、税務署長が指定する月数の期間)延長することができる。
2 前項の申請は、同項に規定する申告書に係る事業年度終了の日までに、当該申告書の提出期限までに決算が確定しない理由、同項の指定を受けようとする場合にはその指定を受けようとする月数その他財務省令で定める事項を記載した申請書をもつてしなければならない。出典:法人税法(e-Gov)
(余談)特例?
中には気になった方もいらっしゃるかもしれませんが、この制度、「提出期限の延長の特例」という名前になっています。
これは国税通則法という、法人税法などの土台となっている法律に「災害等による期限の延長」という制度がありまして、これが災害などがあった場合に提出期限を延ばしてくれる制度なんですね。
それがまず先にあるため、この制度は「延長」という制度の、更に特例という位置づけになっています。
延長の注意点 消費税は延長できない!
消費税は例外!
この届出を出して「よっしゃ、これで決算後の2カ月は遊んで暮らせる!」とは思わないようご注意を!
実はこの延長の届出、法人税・法人住民税・法人事業税にしか効果がありません。
つまり消費税は例外であり、消費税は必ず2カ月以内に申告しなければなりません。
消費税というものは棚卸しや、減価償却などを除いた大半の取引に関係があります。
なので、消費税を納める義務がある会社さまの場合、どちらにしろ2カ月以内に決算をほぼまとめないといけないのです。
できれば納付も2カ月以内に!
また、申告(税務署等への書類の提出)が3カ月以内でいいよ、という制度なので、税金の納付は2カ月以内に済ませてしまわなくてはいけません。
というより、2カ月を過ぎてしまうと利子税という利息のようなものが発生してしまうので、2カ月以内の納付が望ましいんですね。
(金額は見込みで構いません。多めに払っておけばあとで差額が戻ってきます)
じゃあ意味なくない?
まあそうとも言えます。
しかし、決算間際で社長が入院されてしまうなど、なんらかの事情で2カ月以内に申告することができない、という事態が起こることはあります。
災害関係であれば救済措置はあるのですが、そこまでの事情ではない場合、たとえ期限が過ぎたあと一週間ぐらいで申告できたしても、期限内には申告できなかった、無申告という扱いになり罰金が発生してしまうこともあります。
そういったときにこの延長の届出さえ出しておけば、利子税の発生くらいで済み、無申告という扱いにはなりません。
なので、
- いざというときの保険になる
- 消費税がない会社なら、単純に一カ月猶予ができる
という点がメリットになると言えるでしょう。
まとめ
というわけで、
- 延長という制度を使えば期限が3カ月以内に延びる
- 延長の届出を出す方法
- 消費税は延長されないので注意!
といった点をまとめました。
いままでの経験上、この延長の届出を出している税理士事務所は当然に出していますし、出していないところは全然出していないと結構はっきり分かれています。
会社経営はいざというときの備えが大切ですから、自社の状況を一度確認してみましょう!
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